子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)の感染リスクと予防ワクチン

従来、婦人科系の病気の多くは40歳代以降がかかるとされてきましたが、近年は患者さんの年齢層が大きく下がりつつあります。なかでも、毎年約15,000人の女性が新たに発症し、約3,500人が亡くなっている「子宮頸がん」ではその傾向が顕著に見られます。

20歳を過ぎたら子宮頸がん検診

20〜30代で子宮頸がんを発症する女性はこの10年で2倍も増加しており、まだ稀ではありますが、10代で発症する女性も少しずつ増えてきています。

子宮頸がんの発症年齢が低下しているのは、若い年齢で「子宮頸がん検診」を受ける人が増えたことで、若い人の発見機会が単純に増えたことも一つの理由ですが、最大の理由はセックスの経験年齢が低下していることにあります。というのも、子宮頸がんの原因は、主にセックスによって感染するヒトパピローマウイルス(HPV)にあるからです。

ヒトパピローマウイルスは100種類以上の遺伝子型がある、ありふれたウイルスで男性のペニスなどの皮膚粘膜に存在しています。ヒトパピローマウイルスは、尖圭コンジローマに代表される性器のイボの原因となる「低リスク型」と、子宮頸がんや陰茎がんなどの原因となる「高リスク型」に分類することができます。

ヒトパピローマウイルスのリスク分類

「高リスク型」のヒトパピローマウイルスのうち16型、18型をはじめ、31型、33型、35型、39型、45型など13種類に子宮頸がんの発症リスクがあります。なかでも16型と18型は日本人女性の子宮頸がんの原因の70%を占めています。

セックスの経験のある女性の約50〜80%は生涯を終えるまでに最低一度はヒトパピローマウイルスに感染するとされています(データ参照元:アメリカ疾病予防管理センターの研究より)。しかし、ウイルスに感染しても大半は体の免疫の働きによって数か月以内に排除されるため、子宮頸がんの原因にはなりません。

子宮頸がんの原因はHPVの持続感染

ただし、稀にヒトパピローマウイルスが何年も子宮頚部に住み着いてしまい(=持続感染)、さらにその中の一部が細胞の遺伝子に変異を起こし(=前がん病変)、さらに一部が子宮頸がんとなってしまうのです。がんを発症するのは高リスク型のヒトパピローマウイルスに持続感染した1000人のうちの1人(0.1%)と言われています。

仮に運悪く子宮頸がんを発症したとしても、早期に発見できれば、病変部を円錐形に切除する簡単な手術でほぼ100%完治しますし、将来の妊娠・出産も問題ありません。しかしがんが進行すると、子宮を全部摘出することになるため出産はあきらめなければなりません。がんがさらに進行して他の臓器にまで移転すると、命にかかわります。

子宮頸がんは、進行してからも症状がほとんどないのが、大きな特徴です。まれにセックスの直後に出血があったり、オリモノに血が混じっている程度です。不正出血に気付いたときは、子宮頸がんの可能性も考慮して、早目に婦人科で検査を受けましょう。

サーバリックスとガーダシル

子宮頸がんはワクチンで予防できる唯一のがんとして、海外ではワクチン接種による予防が盛んです。日本でもHPVの16型と18型の感染を予防する「サーバリックス(製薬会社:グラクソスミスクライン)」と、これらの型のほかに外陰部にイボができる尖圭コンジローマという性病の原因となるHPV6型・11型の感染も予防する「ガーダシル(製薬会社:MSD)」という2つのワクチンが承認されています。

サーバリックスとガーダシルも上腕への筋肉注射を6か月以内に3回接種する必要があります。ワクチンにはすでに感染してしまったHPVを排除する効果は全くありませんので、セックスを経験しない若い年代のうちに接種するのがベストです。もちろん20代、30代の女性がワクチン接種をしても子宮頸がんの発症リスクを下げることができます。

海外では見られないものの、国内で現在大きな問題になっているのが、ワクチン接種後に現れたとされる様々な副反応です。1〜10%程度の接種者に発熱、頭痛、下痢、注射部位のかゆみ、痛み、出血などが見られ、ごく稀に無力症、関節痛、嘔吐、失神などがあるとされています。因果関係はまだ解明されていませんが、接種後の全身の痛みや脱力で車いす生活を余儀なくされた女の子の例も報告され、マスコミ等でも大きく取り上げられました。

子宮頸がん予防ワクチンに限らず、ほかのワクチンあるいは治療薬でも副反応がゼロということはありません。子宮頸がんの関連学会では「ワクチン接種によるデメリットよりも、未接種によるデメリットが大きい」「ワクチンの接種を中止すれば、日本だけが子宮頸がん大国になってしまう」という趣旨のコメントを出しています。ワクチン接種のメリットとデメリットを保護者とよく相談して、十分に納得してから判断しましょう。

子宮頸がん検診の細胞診にHPV検査を組み合わせた「HPV併用検診」が注目されています

子宮頸がんの予防ワクチンを接種しても、子宮頸がんの「高リスク型」に分類される16型・18型以外の遺伝子型を原因とする子宮頸がんは予防できません。そこでお住いの自治体では子宮頸がんになる前の段階(=前がん病変)を早期発見するための「子宮頸がん検診」を実施しています。

婦人科検診を受ける患者

子宮頸がんは早期の段階で発見できれば、簡単な切除手術でほぼ100%治ります。早期発見のためには子宮頸がん検診の受診が欠かせません。子宮頸がんを発症した有名人(ZARDの坂井泉水さん、仁科亜希子さん、大竹しのぶさん…ほか)や、自治体の「無料クーポン」配布などにより、以前に比べて検診の受診者数は増えていますが、それでも受診率は20%台にとどまっています。

ヒトパピローマウイルスに感染後、早い場合、数年経過すると子宮頸がんにつながる細胞の異常が見られますので、セックスを経験してから2〜3年経っている女性は、誰でも子宮頸がんのリスクがあります。「自分は大丈夫」と根拠のない自信を持つのは危険です。

子宮頸がん検診の対象となるのは20歳以上の女性で、2年に1度、検診受診をお知らせするハガキが届きます。検査は指定された産婦人科を受診して、細長い綿棒のような医療器具で子宮頸管と膣部を軽く擦って細胞を採取して、がんを示す細胞異常がないかを顕微鏡で調べます。

検査中の痛み、検査後の副反応などのリスクもなく、自治体による女性で無料〜1000円程度の費用で受診できますので、20歳を過ぎたら子宮頸がん検診を受けるようにしましょう。

近年はヒトパピローマウイルスの感染の有無を調べる「HPV検査」も普及しています。HPV検査は、子宮頚部を綿棒の形をした医療器具で軽く擦って細胞を採取して、16型や18型など「高リスク型」に分類されるヒトパピローマウイルスに感染していないかを顕微鏡で調べるものです。

HPV検査は、子宮頸がん検診の頻度を決める上で有効とされており、がんの兆候がなくてHPV検査も陰性ならば、子宮頸がん検診の頻度は3年に1度でよく、逆にウイルスに感染しているならば1年に2度検診を受けるといった具合です。

子宮頸がん検診は将来に「がん」化するリスクのある細胞の早期発見・治療を目的にしているのに対し、HPV検査は将来に「がん」化するリスクをウイルス感染の有無に基づいて評価することを目的としています。

国内の約50の市町村では、がん化のリスクがある細胞の早期発見を目的として、子宮頸がん検診とHPV検査を組み合わせる「HVP併用検診」を実施しています。HPV併用検診を受けることで、理論上はがん化のリスクがある細胞をほぼ100%発見することができるとして、注目されています。

コンドームで感染予防

ヒトパピローマウイルスの多くは、男性のペニスに潜んでいます。したがって、感染予防のためにはコンドームの使用が重要です。低用量ピルが普及しつつある近年、コンドームは使わないという声も聞かれますが、避妊とウイルスの感染予防は別物であるということを理解しましょう。

クラミジアや淋病などの性病(STD)と同様、セックスの際にコンドームをつける、不特定多数のセックスを避けるという基本的な予防法で感染リスクを大きく低下させることができます。ただしコンドームは使用法や後処理を誤ると感染予防の効果は薄れてしまいます(参考記事:コンドームでも性病予防に失敗!?)。

先述のとおり、仮にヒトパピローマウイルスに感染しても、体の免疫力がしっかりしていれば、がんの発症に至らないケースがほとんどです。そのためには免疫力を落とさない生活を心掛けましょう。免疫力を低下させる要因として大きいのはタバコです。子宮頸がんへの経過を調べた研究でも、喫煙習慣のある女性ほど悪いデータが出ています。

不正出血は子宮頸がんの可能性も考えて婦人科で検査を受けましょう

生理以外で性器から出血がある状態を「不正出血」といいます。1週間以内の生理が規則的にあり、ほかは出血しない状態が健康です。鮮血が大量に出るような明らかな異常はもちろん、下着に茶褐色のシミがある程度でも、それは不正出血です。何らかの原因があって出血が起きているので、少量だからといって「たいしたことない」と無視するのは禁物です。

生理不順と判別が難しい

生理不順の人の場合などは特に、それが生理が遅く来たり早く来たりしたものなのか、不正出血なのか、自己判断するのは困難です。原因を特定し、もし何らかの病気が隠れている場合は早期治療を行うことが大切です、そのためには、気になることがあったら婦人科を早めに受診しておくと安心です。

不正出血は大きく分けると以下の2つのタイプがあります。

器質性出血
子宮頸がん、クラミジアやカンジダの感染による膣の炎症など、性器の病的な異常が原因で起こる出血です。原因となる組織を手術で早急に除去するなどの治療が必要となることが多いので、婦人科で不正出血を調べる際には、子宮頸がんの可能性を考慮して、まずこの器質性出血かどうかを検査します。

性交時の出血、下腹部痛などの症状

子宮頸がんについては、先述したように、セックスによるヒトパピローマウイルス(HPV)の感染が原因の大半です。初めてセックスを経験する年齢が低下している今日では20歳代の発症も珍しくありません。がん治療は早期発見が何より重要ですので、不正出血の兆候がなくても、子宮頸がん検診を2年に1回の頻度で受診しましょう。

子宮頸がんがある程度進行すると、上図のように不正出血のほか、茶褐色や黒褐色のおりものが増えたり、悪臭のするおりものが出たり、下腹部痛、背骨、下肢の痛みなどの症状が現れます。

機能性出血
上記の器質性出血に該当せず、また、血が止まりにくい病気といった原因がほかにない場合、機能性出血と診断されます。これは月経のサイクルやホルモンバランスに由来する出血で、ホルモンバランスが不安定な思春期や更年期の女性に多く見られます。

20〜30歳代の性成熟期に起こる機能性出血は、排卵障害で起きている可能性もあります。排卵障害には多くの種類がありますが、最も多いのは「多嚢胞性卵巣症候群」です。これは、卵巣にたくさんの嚢胞(嚢)が生じて表面が硬くなり、排卵が妨げられるという病気です。

普通にきた生理でも、10日以上続くものは不正出血です。一時的なホルモンバランスの乱れであっても、治療は必要です。本人が気づかないうちに貧血が進行しているケースもしばしばです。

生理不順と見分けがつきにくい不正出血ですが、月経や排卵との関連性を調べることが原因究明や治療のカギとなります。普段から基礎体温を記録しておけば婦人科を受診する際に診断の役に立ちます。

ホルモンバランスの乱れや、排卵障害の有無も、基礎体温表から読み取ることができます。また、自分で排卵日がわかれば、治療の必要のない中間期出血(20歳代の排卵時期に見られる軽い出血)かどうかの判断も、ある程度は正しくできます。自分の体の変化に敏感でいるためにも、基礎体温表を付けることをオススメします。


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